陰陽師の発言で少し気になるのは、彼らが「除霊」ではなく「消霊」を行うと述べている点である。私たちは肉体と霊体を持つが、肉体が死んだ後も霊体は生き続けると言われている。しかし、その霊体を消し去るというのは、霊体の寿命を考えると肉体を殺してしまう殺人よりも責任がずっと重い。
永遠の命を持っている霊体を消去するとは、まさに真の命を抹殺することであり、人間を一人殺すのとは重大さが桁違いである。「悪い霊だから情けはかけない」と彼らは述べているが、善悪を一人の人間が人間の都合で、人間の道徳観で決めるのは横暴であるかもしれない。
彼らの言う消霊が、本当に未来永劫、魂を無にすることを意味しているのかどうかの真偽は判明しないが、本当に消し去るのであればその行為は極めて重い責任を伴う。
仮に消霊という行為が人間によって行えると仮定しよう。すると、当然ながら霊体同士でも消霊ができるだろう。神格を持った霊体であれば、さらに強大な消霊力を持つだろう。つまり、消霊が可能であったなら、霊界は想像を絶するような消去合戦が繰り広げられていて、物騒だということになる。
消去とはいうが、魂を消してしまう真の殺人である。あの世がそうした暴力が支配する世界であれば、霊界全体が修羅場。力に従わない霊体は「悪」とみなされ死刑執行がなされる。霊体は常に消される恐怖に怯えて暮らさなければならない。
私たちは罪を犯した者、悪行をした者は即座に殺してよいという世の中には住んでいない。それをすれば冤罪が必ず起こる。例えば悪党をこらしめるための制裁を行っている善良な魂が、悪行と誤解されて消霊されてしまうことも起こりうる。もし私たちは街で悪行をしている者をみかけて即座に殺すというようなことをすれば、その報復合戦に巻き込まれ、命が虫けらのように扱われることだろう。だから私たちには死刑執行の権利は与えておらず、冤罪を防ぐために系の執行は裁判を通して行われる。消霊はそうした慎重な検討を行わないところに問題がある。
陰陽師が「正義の味方」としてやってきた消霊は再検討を要するのかもしれない。まあ、その辺は私が意見するところではないかもしれない。だが、霊界には問答無用のアンタッチャブルな領域があることだけは呪術師、黒魔術師などが世界中に存在することで伺える。→次の本文を読む