量子論を医学に応用することは、幼稚園児をハーバード大学に入学させるよりも難しいことである。それは生命そのものがあまりに複雑すぎるからだ。原始的な細胞一つをとってみてもその中にあるミトコンドリアやゴルジ器など、複雑難解な化学工場が立ち並んでいる。科学は「細胞の中に工場がある」ことはつきとめたが、工場の中で何がどのように行われているのかの詳細がほとんど不明のままだ。おそらく工場の中では人間の予測をはるかに超えた複雑な動きがあると量子力学者たちは推測している。
自己複製できる細胞をゼロから作ることさえできない私たちが、37兆個の細胞が集まる人間の病気を科学的にとらえることはいまだに不可能である。よって、量子を医学に応用するには、飛び越えなければならない次元がいくつも存在し、それは幼稚園児を一流大学に入学させるよりも困難なことである。
と言っても、量子論がどれほど難解なのかを私たちは理解さえできていない。だからまず、量子論の立ち位置を理解する努力をしてみよう。
まず量子力学は現在の半導体技術、電子機器の設計、GPS、携帯電話などの基礎となっており、世界的に認められて実用化されている最先端力学である。今後の科学技術の発展に「もっとも重要な理論」でありこれをオカルトと考える科学者は存在しないことになっている。
しかし量子論は私たちの住む三次元世界では説明できないオカルト現症(同時に数か所に存在する粒子、距離を超えて影響し合う粒子、壁をすり抜ける粒子)を起こすことが判明しているためアインシュタインやニュートンの物理学を覆し、否応なしに人類をオカルトの世界に引きずりこんでいる。いや、オカルトにひきずりこんでいるのではなく、そもそも生命体自体がわからないことだらけでオカルトの宝庫である。科学が一歩ずつ、そのオカルトの入り口から中の方へ進んでいるにすぎない。
量子論は実証論科学者たちが「もっとも嫌うオカルト」を受け入れなければならないという窮地に立たせている。彼らは「実証できない」という理由で量子論に反論や意義を唱えてきたが、すでに量子論を応用した科学技術の中で自分たちが生きているので完全に無視することができずに困っているという状態にある。
量子理論は間違いなく既存の科学を破壊する位置に立っている。実証論科学者たちは量子論を否定すれば科学の進歩に取り残され、認めれば自分が研究している理論を壊されるという矛盾にさらされている。
量子力学は宇宙の万物の基礎となる力学なので全ての学問の土台と言ってもよい。よってその理論が既存の理論を破壊する力はすさまじい。学校の教科書も教育制度も、ひいては宗教や政治をも破壊しかねないレベルである。
そして興味深いことは、それほど重要な位置づけにある量子論を、私たちは学ぶ機会を与えられていないことだ。ここに書かれていることが初耳だというのであれば、それが証拠となっている。
さて、既存の科学をあざわらうほどの威力のある量子論であるが、医学だけは量子論からの攻撃を免れている。その理由は、人間の病気が複雑すぎるため量子論を病気に適用して考察できないからである。幼稚園児を有名進学校(小学校)に入学させることはなんとか可能だが、ハーバード大学に入学させるにはあまりにも学力がかけ離れている。幼稚園児がハーバード大学の入試問題に手が付けられないのと同じ理由で、医学は量子力学的な考察を採用さえできない。
量子論は無機物に対して歩み寄ることができたが、生きている物体(生物)には歩み寄ることさえ困難なのだ。それは生物があまりにも複雑なシステムで動いているからである。私たちは命とは何か?の答えに近づくことさえできず、その結果、科学は命あるものの仕組みを未だに解明できないままでいる。量子論は命の秘密を解く鍵になるだろう。
ところが、20世紀の半ばまでは科学(物理や化学)で生き物のすべてを理解できると考えていた科学者がほとんどであった。それは量子力学が台頭する前の出来事である。生き物は蒸気機関車と本質はほとんど変わらないと思われていた。その傲慢な考え方が最先端の量子力学によって壊されつつある。
さて、いまや量子論は生物の世界に足を踏み込み始めた。臭いをかぎわけるシステム、渡り鳥が飛ぶ方向を間違えないシステム、光合成のシステムなどに量子力学的な仕組みが関わっていることが徐々に証明されてきたからである。それを量子生物学と呼ぶ。量子生物学は医学と言う旧時代のカタブツの殻を破ろうとまさにその隙をうかがっている。そしてあと一歩で量子医学という学問が生まれるという境界線に私たちはやってきた。
しかし、境界線に立ちはだかるモンスターは巨大である。政治・宗教・経済・産業というモンスターが殻を破られないように守っている。今のところモンスターは「量子論など敵ではない」と油断している。が、そのうち本気で抵抗するだろう。量子医学はそうした旧体制との戦争・戦場の最前線に位置している。→次の本文を読む