1974年に日本のテレビデビューをした超能力者として有名なユリ・ゲラーを知らない人はほとんどいない(若い世代を除く)。スタンフォード大学が彼の能力に関して研究を行ったことは有名だがその内容については公表しない立場をとっている。
公表しない理由は明白である。彼の能力を認めようと否定しようと、どちらにしても大学の立場が悪くなるからである。
超能力とトリック、その両方を区別する明瞭な方法は存在しない。よって、結果を出せば、その結果のどちらも世間的には否定される。すなわち大学には汚名しか残らない。
これは超能力の世界の全てに共通している。例えば、人を奇蹟的に治す能力があるにしても、ないにしても、科学者がそれを研究したところで、結果に対して必ず否定される。だから奇蹟の治療を研究した者は社会から抹殺されてしまう。よって日本の医大では「奇蹟の治療」に関して研究しているところはない。奇蹟の治療を認める論文を発表したら、それが世に認められないように画策されてしまうので意味がない。利口な人であれば、研究する前の段階でそれに気づく。たとえ目の前で奇蹟を見て、それを信じたとしても、発表することは愚でしかない。
次の章で述べるが、ノーベル医学賞をとったカレル博士が、神の力によって不治の難病が目の前で治るという経験をし、それを「ルルドへの旅」という小説仕立ての本とし、彼の死後、妻が出版した。が、それがなぜ小説仕立てなのか? なぜ存命中に出版しなかったのか? それは「超能力を認めないようにしよう」という圧力があまりにも強いことを物語っている。ノーベル賞をとった科学者でさえ存命中に公表する勇気を持ち得なかった。
さて、ユリ・ゲラーの話に戻そう。
ユリ・ゲラーはその能力をCIA(米国の中央情報局)が認めたという話を知っている人は多いと思う。物理学者のハロルド・プトッフ博士(先端科学研究所・所長)が証言している。証言ではスプーン曲げなどに関してではなく、「透視能力に関して」認めている。1974年にネイチャーでプトッフ博士はこの結果を発表し話題を呼んだ。おそらく、それ以外はトリックとの区別がつかなかったということだろう。
一方マジシャンのパナチェックは「超能力に見える現象は全てトリックで作り出せる」と述べている。彼はマクドネル超能力研究所に「自分を超能力者である」と偽って応募し、科学者たちを欺こうという計画を立てた。彼は見事にスプーン曲げを成功させたと科学者たちを欺いた。1983年記者会見を開きことの真相を暴露した。この事件後、超能力研究は下火になった。
また、イギリスの科学誌「ニューサイエンティスト」はゲラーの能力は偽りであるとする特集を組んだ。このように懐疑論は決して消えることはなかった。
さて問題は、そうした懐疑論が存在しているにもかかわらずなぜCIAが超能力の研究に乗り出したか?である。もちろん明白な理由があった。それは軍事利用であった。透視能力があれば他国の武器開発の研究を盗み見することができるからである。米ソの冷戦時代にはそれが必要だった。
超能力研究は、発表すれば潰されるが、軍事利用では発表することはないので潰されることもない。ならば研究して損はない。というよりも、ソ連の一歩上を行くために、軍事施設を透視する能力が絶対に必要だった。なぜなら、ソ連側も当然ながら超能力者を使って米国の軍事施設を透視できるからだ。
当時、必要だったのは軍事力の均衡であり、ソ連が超能力者を軍事利用するのであれば、米国がそれをしないわけにはいかなかった。だから、超能力がご法度の、科学支配の米国でも、上層部からの指示で研究者たち無理矢理超能力研究をさせられる破目になったらしい。
2004年、米国の情報公開法に基づき、超能力研究が1972年から20年間行われていたことを公開した。そこには超能力者が透視して描いた敵の軍事基地や秘密兵器のスケッチが大量に含まれていた。描いた超能力者への取材も可能であり、透視内容の多くは公開されている。その後、超能力者たちはその透視能力を行方不明者の捜索や、投資先の選択に役立ててビジネスをしているそうだ。→次の本文を読む