臭いの研究から始まった量子医学(本文)

 ジョンジョー・マクファデンの「量子力学で生命の謎を解く」によると、嗅細胞は1万種類以上もの臭いをたった300~400種類の細胞でかぎ分ける。なぜ300~400種類の細胞で1万種類のにおいをかぎわけることができるのかは今も尚謎である。
 これまでは臭い分子が嗅細胞の鍵穴にはまることで電気信号が発信されて臭いを感じ取っていると考えられていた。しかし、その理論では300~400種類の臭いしかかぎわけることができない。だから臭い分子がレセプターにはまって信号が伝わるという説が疑問視されていた。
 コロンビア大学のアクセルとバックは臭いの分子は1種類ではなく何種類かの嗅細胞を活性化させ、また1種類の嗅細胞は何種類かの臭い分子に反応することを発見。この組み合わせによって300~400種類の細胞で1万種類のにおいをかぎわけることができると発表して2004年にノーベル賞を受賞した。
 しかし、それがわかったとしても、一つのレセプターで何種類かの分子を識別できる理由、一つのレセプターが他の莫大な量の臭い分子を除外できる理由が謎だった。
 化学全盛期の医学において、形の決まった分子がレセプターの鍵穴にはまることでスイッチをonにするという考え方が医学の全てであり根幹だった。つまりレセプターはスイッチのオン・オフをするのみであり、分子の種類を識別する能力などあるはずがないというのが医学の常識であり根幹だという意味である。ところがそれでは複数の分子に対応することはできない。一方、指紋認証の場合、指紋を登録した人たち全員がスイッチをオンにできる。しかし指紋認証は普通のスイッチと比べれば、とんでもなく大掛かりで複雑なシステムである。
 だからアクセルとバックの論文は確かにノーベル賞をとるほど素晴らしいのだが、嗅細胞に指紋認証ができる理由を全く説明できていない。指紋認証の機械を作るには、機械の専門家にさえゼロから作らせることは難しいが、スイッチならば小学生にも簡単に作ることができる。それほど指紋認証機械とスイッチは桁外れに技術レベルの次元が違う。だからアクセルとバックの理論はまだまだ核心からははるかに遠い。
 単なるレセプターに臭い分子認証機能が存在するなんて話は奇抜すぎる。レセプターは非常に小さく、シンプルな構造である。そこで指紋認証のような複雑なシステムが働いているかもしれないと誰が発想できるというのだ。
 この「レセプターに指紋認証システムがあるかもしれない」という発想は医学にとって爆弾発言になっている。人間の作っている薬品はレセプターの鍵を作ることを意味している。そして鍵の値段が数千万円するものまであるのだ。ところが鍵穴には複雑な認証システムが存在していて実際はレセプターが人間の想像を超えた複雑な働きをしている可能性があるかもしれない。ところが人間の作る化学薬品は指紋認証を全く無視し、単に鍵穴を塞ぐことしかできていない。ならば化学薬品は人間の繊細な病気を治すにはまだまだ及んでいないことになる。現実的に言うと、薬害は人間が鍵しか作れないから起こっていることになる。
 レセプターに指紋認証があるという可能性は、「化学で病気を治す」ということの根底を覆すほどの一大事になっている。鍵穴を塞いだことで喜んでいる化学者・医者たちに、「鍵穴のさらに奥深くに様々なシステムが存在している」ことを認めさせなければならない。一つのレセプターが一つの役割を担うのではなく、他のレセプターの信号と複合されることでもっともっと複雑な命令系が作動していることを示唆している。それほどこのレセプターの指紋認証は医学の進歩に重要な役割を担っている。
 しかし、嗅細胞の仕組みがノーベル賞をとるほど科学史に貢献しているにもかかわらず、医学界はそれを完全に無視している。これが量子医学と医学の関係を表している。→次の本文を読む