自立神経系の矛盾(本文)

 私たちは気づいていないが、脳から始まり心臓・消化器など、人体のあらゆる臓器が自動的に動いている。自動的なので気づかないだけなのだが、その自動能は極めて複雑でかつ極めて精巧にできている。もしも、その自動能を全て意図的にやろうとすれば、何万人もの人間で役割分担をしなければならないだろう。自動能は内臓に限らず、複製・再生・免疫・成長・生殖などにまで及ぶ。それは莫大な情報操作(指令)群である。
 人や動物は生きている環境が変わっても生き残ることができるように恒常性を持っている。暑い時は自動的に汗をかく、寒いと鳥肌がたって震えるのもその一つである。しかも上に挙げた全ての臓器、全ての役割が連動していて一つの条件(例えば気温が上昇するなど)が変化すると連動して自動的に全ての臓器の動きに変化が起こる。肉体の臓器は歯車のように絡み合って動いていて、一つの臓器が各々勝手に動いているわけではない。食事をとると眠くなるのも伊達に起こっていることではない。
 ところが医学の教科書にはそうした連動性の説明が極めて不適切で、私は学生時代、自律神経系の作用について学んだときに「医学書には嘘ばかり書いてある」と感じて落胆していた。誰がこんな嘘を吹聴しているんだ?と憤りさえ感じたものだった。
 例えば、交感神経系が興奮すると血圧が上昇すると医学書にあるが、極度に興奮すると血圧が低下して貧血や気絶を起こす。映画館で恐怖映画を見たり、血が流れているのを見たりすると失神する人がいるのはそのためである。
副交感神経が興奮すると腸の動きが活発になると医学書には書いてあるが、極度に緊張して交感神経優位になると、下痢を起こす人が大勢いる。つじつまが合わない。スポーツの公式戦前に下痢してトイレに行くのはそのせいである。だから私は学生時代、医学書に書いてあることを真実であると受け入れることができなかった。医学書がこんなに嘘だらけでよいのだろうか? そしてこの嘘を他の医師たちが少しも疑問を持つことなく医療に従事していて本当に良いのだろうか?と思っていた。あまりにも人間を単純化しすぎている。
医師になってからわかったのは、自律神経の解明に医学が全く追いついていないことだった。しかし、「追いついていないこと」が暴露されると権威の維持や支配ができなくなるので隠していたのだった。
すでにこの「医学が追いつけていない理由」については答えが出ていると私は考えている。化学物質-レセプターの情報伝達が、単にスイッチのオンオフではなく、そこではもっと複雑な情報の受け渡しが行われているからだろう。
そして交感神経-副交感神経という全か無かの単純な動きではなく、全ての自律神経がもっと複雑な絡みをもって連動しているのだろう。
 くどいようだが、私が気づいているのだから他の研究者たちも気づいている。医学とは無縁な一般人でさえたやすく気づく内容である。医学がもっとオープンな学問であったなら、多くの知識人からツッコミが入り、医学書の内容(診断テストや病態生理)が片っ端から論破されている。ではなぜ、論破されていないのか? むしろその理由を各自が考えるべきである。→次の本文を読む