意識と量子力学(本文)

 ペンローズは「意識の本質は量子力学における波動関数の収縮過程が計算不可能であることと関係している」と述べている。しかし、多くの神経科学者はペンローズに同意していない。神経科学者のキンズブルンは「意識があるというのは神経回路がある特定の相互機能状態にあるようなもの」と人間の脳をコンピューターに例える。しかし、ならばなぜ高度に連結したコンピューターが意識の兆しも見せないのだろう。その理由は意識が量子力学的現象だからだというのがペンローズの主張である。
 彼はアリゾナ大学の麻酔学・心理学者のハメロフと組み、「神経細胞にあるチューブリン蛋白質同士が量子もつれ状態にある」と提唱し、脳内のあらゆる信号の結びつきの問題をもつれ状態で説明しようとした。
 脳の中で量子力学的現象が起きているかもしれない場所が神経細胞の膜の中にあるイオンチャンネルだ。ここでは極めて速い通過速度と選択性が存在しているおかげで思考を伝える能力を支えている。しかし、イオンがこれほど速く選択的に選ばれるのか? そこにはイオンの非局在化(コヒーレントな波動)があることがわかった。また、イオンは極めて高い振動数で共鳴し、周囲の蛋白質にエネルギーを移動させることにより冷却し、デコヒーレンスを食い止められ効果的な量子輸送が促進されると結論付けた。
 ところが脳という暖かで湿った環境では「互いに異なる神経細胞内のイオンチャンネルどうしがもつれ状態にある」とは考えられないため、マクファーデンは脳の電磁場が結びつきの正体であると仮説を立てた。これを細胞間無線通信という。
 脳自体から発生する電磁場に強さやパターンが似ている電磁場を外からかけると確かに神経発火が影響を受けることが実証されている(アナスタション(2011))。そのような電磁場は神経発火を統制し多数の細胞を同期させる。そのフィードバックループが意識の重要な構成要素と考える。→次の本文を読む