形を再現して再生(本文)

 ところが最近、細胞外マトリックスを用いて切断された指がほとんど元の長さの指に戻るように再生されることが報じられた(NHKスペシャル 「人体“製造”~再生医療の衝撃~」参)。細胞外マトリックスとは細胞外の空間を充填する物質であり、コラーゲン、セルロース、グルコサミノグリカンなどを示す。切断端に豚の膀胱から抽出したコラーゲンの粉をふりかけると、指先が生えてきてほとんど元の長さまでに戻ったという話(最高で10mm程度)。ピッツバーグ大学、再生医療センター「スティーブ・バディラック博士」らが発見し、米国では実用化されているようだ(日本では認可されていない)。
 しかし、コラーゲンの粉をふりかけただけでなぜ比較的精巧な指先が作られていくのかは理解できない。骨が伸びてその断端が閉じ、血管と脂肪と結合組織と皮膚がその上になめらかに作られていく状態を、「コラーゲンの刺激」と簡単にしめくくってよいものだろうか。
 仮説として、このコラーゲンの粉が形態形成の場に影響を及ぼしているという考えがある。が、そういう見方をすることを医学者たちは特に嫌うだろう。「コラーゲンがどのように場に影響できるのかね」と反論されるだろう。だが、明らかに受傷前の状態に組織全体が戻ろうとしないかぎり、指は美しく仕上がって来ないので、形態形成の設計図(場)があるとしか思えない。
 トカゲの尻尾が生えてくる際、元の完全な尻尾に戻ることはないが、尻尾に見える長い組織が生えてくる。これが単に切断端の刺激で細胞が自動的に作られて尻尾に見える組織ができると考えるのは理論が短絡的すぎる。
 逆にオタマジャクシのように尻尾がなくなって手と足が生えてくる場合もあるが、これも遺伝子だけで説明がつくのだろうかという疑問を持つべきである。
 イモリは尻尾も四肢も顎も目のレンズも再生する。それは今のところ遺伝子の配列だけで四肢再生が可能になるのだと考えられているが、その考えは飛躍し過ぎている。プラモデルの自動車の設計図で実際の自動車ができてしまうと主張しているようなものだ。
 分子生物学者の遺伝子操作とその理論立てには正直言うと私は落胆している。私を含む量子力学者たちの意見はこうだ。「ならばゼロから生き物を作ってごらんなさい」と。DNAという設計図だけでは生き物は作れない。それが私たちの意見である。何か別の命令系が働いているとしか考えられない。→次の本文を読む