呼吸は石炭を燃やして走る蒸気機関車と比べると、はるかに効率よくエネルギーを消費する。そのプロセスはミトコンドリアと呼ばれる複雑な細胞小器官の中で行われている。ミトコンドリアが呼吸のような極めて精巧なプロセスを進めることができる理由は、かつて細菌として独自に生きていたことで証明できるだろう。呼吸では酵素が電子をバトンリレーのように受け渡していくことで成り立っている。
ところが酵素から酵素への電子移動は、従来の電子ジャンプではとうてい起こりえないとされる長距離で起こる。これが呼吸の謎。機械論者はタンパク質が時計仕掛けのように回転して電子を受け渡すという説でこの謎を切り抜けようとした。が、そうであるならば超低音では電子移動速度が落ちるはずだが、デヴォールトらが電子移動速度が低温でも小さくならないことを証明。それ以来、この謎の正体は量子トンネル効果ではないかと言われるようになった。
今では電子が量子トンネル効果によって呼吸鎖を伝わることに疑問を持っている科学者はほとんどいない。それでも生物において量子効果が果たす役割は蒸気機関車の仕組みと同じだと主張している科学者が多い。→次の本文を読む