江戸時代、国学者の平田篤胤の記録による。
江戸の昔、「勝五郎」という少年がいた。現在の東京・多摩区に暮らし、生まれ変わりの記憶を話したそうだ。それによると、前世は「藤蔵」という名前で、一里半ほど離れた別の村で暮らしていたが、6歳の時に病気で死んでしまったという。勝五郎は、夜ごとに「前の両親に会いたい」と訴えたが、両親は本気で取り合おうとはしなかった。しかし、ある時、勝五郎の祖母は、村の集まりでそのことを話してみたところ、勝五郎の話に一致しそうな子どもがいたことが分かった。そこで祖母は、勝五郎が前世で暮らしていたという村に連れて行ってみた。すると勝五郎は村に入るなり、かつて住んでいたという家をあっさりと見つけた。そればかりか、「以前あの屋根はなかった、あの木もなかった」と、村の変化を正確に指摘した。その様子に驚いた家の人たちは、勝五郎を藤蔵の生まれ変わりであることを認めたという。(勝五郎再生記聞)。
ただし、霊に詳しい密教の僧侶によると、こうした記憶は霊の憑依で起こるとも言われている。藤蔵の霊が勝五郎に憑依して前世の記憶があるようにふるまうということがあるそうだ。だから前世研究ではそういうこともふまえて綿密に調査が行われなければならない。
前世の記憶を研究している科学者は、日本では中央大学教授の大門正幸博士。米国ではバージニア大学のスティーブンソン博士がいる。スティーブンソン博士は40か国以上で事例を収集し、これまでに2500例以上を研究。彼が前世の記憶の研究を始めたのは平田篤胤の記録がきっかけだった。彼が2007年に亡くなった後はタッカー博士が後をついで研究している。
タッカー博士によると「多くの子供たちは幼い頃に前世のことを話し始めます。平均年齢はだいたい2歳から3歳のころです。そのほとんどが6歳から7歳で話すのをやめ、普通の人生を歩むようになります。」
こうした前世の記憶を「幼児のたわごと」とみなす発達心理学者がいる。コーネル大学のセシ博士は4歳の子供に「ネズミ捕りに指が挟まって病院で外してもらったことがある?」と質問を繰り返し続けると、最初は否定するが、10週目には実際にその話を信じ込み、偽の記憶が作られることがあることを示した。つまり、彼は暗示によって偽の記憶が作られることを示して前世の記憶は偽の記憶であると考えた。
しかし、このような偽の記憶の移植は意図的に大人が計画的に実行しなければ成立しない。記憶操作は心に対する犯罪であり、法には触れないとしてもこうした心理実験を行うことは倫理的に許されてはいけないと私は思う。前世の記憶の中には幼児には不釣り合いな数学力を示した例や外国語を話す例もあるこれらは偽の記憶の移植では説明がつかない。セシ博士の推奨するトリックは、非人道的でありその是非が問われる。→次の本文を読む