彼は偉大な科学者であり、何か国語も話し、貴族院議員であったが、当時、名の知れた霊能者であった。私はこれまで密教の本や霊能者たちの著書を読んできたが、彼ほどわかりやすく、かつ詳しく理論的に解説してある心霊世界の書はなかった。
私は彼らの書を読むとき、つねに気にかかるのは彼ら自身の霊格である。霊格の高い霊から観察すれば、そこよりも次元の低い世界は見えて理解できるが、自分よりも次元の高い世界は見ることができない。だから彼らの発言が正しいとしても、次元の制約を受けてしまい、話に食い違いが出てしまう。
彼は守護霊の導きでいろんな霊界を見て回ったはずだが、その守護霊の霊格よりも高い次元には行くことができなかったはずである。おそらく彼が見て回った世界が全てではなく、そのさらに上にも無数の世界があると私は考える。それが彼の研究の限界点でもある。
霊能者たちの意見で最大の食い違いが出るのは、彼らが参考にしている神霊たちの教えが、天(神)由来なのか地獄(魔)由来なのか?の違いでも起こると思われる。彼らは全員が(大僧正でさえ)自分は神(善なる霊)から啓示を受けていると信じて疑わない。しかし、スウェデンボルグが言ったことを参考にすると、歴代のローマ教皇は地獄に堕ちていたのであるから、何名かの教皇らの教えは「魔(悪霊)から導いた」ことになる。それは聖職の頂点を極めた人が生前は悪霊と親密だったことを意味するわけで、霊能力が強いからといっても、それが善霊由来とは限らない。
まず、私が気になった食い違いを少し上げよう。一つは霊界の階層。
密教では、天界・人間界・阿修羅界・動物界・餓鬼界・地獄界の6階層に分かれる。が、スウェデンボルグは9階層+精霊界に分けた。彼の著書には動物霊や植物霊について、全く触れていない。彼ほどの霊能者がなぜ動物霊について述べていないのか不思議でならないが、おそらくは動物界を訪問していないのだろう。
そのように考えると、彼が訪問していない世界がまだまだいくつも存在する可能性が高い。密教では天界、餓鬼界、阿修羅界が設定されているが、彼はいまだかつて、そうした世界に訪問したことがないと私は推測する。
また、彼は地獄界はないと断言しているが、彼が訪問したことのない正真正銘の地獄界が存在するのかもしれない。
私は密教は「多くの霊能者たちの意見の総集であるから信憑性が高い」と認識しているが、スウェデンボルグのように一人で霊界と現世を往復した者の意見は、客観性が低くなるのはやむを得ない。
彼は霊界の縦のつながりについて研究していないところがもう一つの限界である。霊界は階層に分かれるため、階層間の縦のつながりがないと彼は考えているがそれはまずあり得ない。なぜなら、階層の違う霊たちが人間界(3次元世界)に訪問した時、必ず縦のつながりが発生してしまうからだ。人間界(3次元世界)は次元の違いによらず、霊ならば誰もが(動物霊でさえも)訪問できる場所である。神も一般霊も動物霊も悪霊も全てミックスされた世界では、無秩序ではなく、政治で言う政党のようなもの(派閥)が生まれ、政党内ではランクの異なる霊体が協力し合う。これが縦のつながりである。霊能力や権力のある霊(神や悪魔)を党首として、様々な種別の霊たちのコミュニティが生まれるのは必然。
しかしながら、スウェデンボルグは、それを観察して学ぶには寿命(霊能力が目覚めて30年)が短すぎた。
一方、密教は霊能者たちで数千年の間、ストックし合った莫大な情報があり、霊界の様々な裏情報を得るには都合が良い。しかしながら、密教と言う組織存続や支配のために真実を歪められる可能性があるため密教の言い分の全てを真に受けるわけにもいかない。
例えば、個人は組織のしがらみが一切ないのでスウェーデンボルグの著書のように真実を述べやすい。事実彼はローマ教皇(聖職者のトップ)が地獄に落ちていることを告白している。が、こうした告白は密教や他の宗教では隠ぺいされる。
歴史から見ると密教は国王をも支配する力を持っており、そこに闇の力が存在しないはずがない。密教は決して清らかではいられず、闇の部分はことごとく隠ぺいされる運命を負う。これが密教研究の限界点である。よって個人の意見の方が真実に迫っている場合もあるだろう。
霊界に階層があることは多くの霊能者が認めている。階層を決めるのは何か?誰か?といったところに相違点がある。宗教的には審判の権限(階層を決める権限)を持つ絶対的な存在があるとされている。スウェデンボルグは霊界の階層は「自分で選んでいる」と述べているが、動物界、餓鬼界などについて述べていない彼の意見が正しいかどうかはわからない。例えば人間界から動物界に移行させられ場合、霊は「自分の意志で動物界に行った」とは考えにくい。彼の著書に動物や植物の霊について何も書いていないことが、彼の意見の信用性を低めている。
このような意見の相違は人間の寿命が短すぎることで起こる。だが、これからの時代は系統だって研究していく必要があると思う。
最後になるが、スウェーデンボルグは生霊に関しては一切述べていない。この世に生きている人間が自分の想念の分身的霊を飛ばしてしまうというもの。自分の分身霊は本人から独立して怨霊として活動する。願わくばスウェーデンボルグには生霊の考察もしてもらいたかった。→次の本文を読む