密教でしばしば用いられるオームという言葉は意識を定義する言葉であり、AとUとMとAUMの4要素から成る。Aは目覚めた意識(日常)、Uは夢の意識(思考、感覚、欲望、志向の世界)、Mは深い眠りの間の意識(仏教で空という)、そしてAUMは一切を包括する宇宙の高次元意識(非人格的な状態、宇宙の意志と一体化している)。
空海・弘法大師の言う「即身成仏」と密教のAUMはおそらく同じような意識の状態を表すのだろう。AUMとは誕生も老化もなく不死で悲しみのない状態であり完全に自由かつ独立している状態。転生輪廻から逸脱している状態。
AUMは自分が無限であることを体感している状態と言える。そんなことが普通にはできないが、霊能者は無限に近い状態を体験できる。それは自分の意識を次元を超えて移動させることができるからである(幽体離脱など)。AUMを具体的に表現すると、神的宇宙の象徴、無限の力、無限の空間、無限な存在(永遠の命)、普遍的な法、全能の意識、全てを包む愛、究極の知恵などとの一体化である。
普通の人でも深い瞑想の状態が得られると、高次元世界とつながる疑似体験ができることがある。
よって霊能者はこうした能力を駆使できるようになると、まるで魔法使いさながらのようなことができるようになる。いや、それは究極的には魔法使いを超え、創造も破壊も意のままになると言われる。この信じがたい状態が密教の究極。
無限を感じるとは限界を打破することであり、それを言いかえると解脱となる。そして次元の数と同じだけの無限の数があり、気質の数だけ解脱の形態がある。
気質とはこだわりや弱点、苦悩のことである。例えば、束縛に苦しむ人が、今の状況を「束縛されている」と考えなければ、苦しまないで済むことを悟ったとする。それは束縛されているという脅迫観念を、実は自分の心が作り出しているにすぎないことに気づく過程である。実際は全員が何らかに束縛されているのであり、それを苦しむから束縛になるだけで、楽しめば束縛にならない。そう悟ったとき、ようやく心は束縛から解放されて無限の自由を得る。こうした状況を解脱と呼ぶ。解脱は悩みの数だけ存在する。
解脱することで、暗闇に苦しむ人は限りない光明を体験し、死に恐怖する人は永遠を体験し、不安に苦しむ人は安らぎを楽しむだろう。こうやって心は次々と無限を感じるようになり、その究極としてAUMの状態になって行ける。
その終着点を目指すことが人間に生まれた醍醐味であり、生きている間に解脱をどれだけ経験できたか?が精神の成長のバロメーターとなる。が、解脱できる人間は本当にいるのだろうか?という疑問点に到達する。密教を知ろうとするならば、その疑問を一旦捨てなければならない。
人は金持ちになって我欲を満たすことを成功と錯覚してしまうと、解脱からかけ離れてしまい、精神が全く成長しないまま人生を終わることになる。そうではなく、一つ一つの苦悩を乗り越えて無限を体験していくことが人間本来のこの世に生まれた意味であり、成長であり幸福なのかもしれない。→次の本文を読む